理事長対談

理事長対談

2009年4月1日 対談
櫻井よしこ氏(ジャーナリスト)
栂野慶太(社団法人東京青年会議所第60代理事長)

栂野理事長

 この経済不況で他の国は矢継ぎ早に経済対策をしている中で、我が国は次の選挙のための理由の1つとして経済対策のカードを切っているようにしか見えない部分があります。
 この世界不況の危機的状況の中で、国としてどうすべきなのか、国民1人1人が何をすべきなのか、お考えをお聞かせいただけますか?

櫻井氏

 私たちは、まず戦後の歴史をきちんと検証しなければいけないと思います。例えば麻生総理のお爺さまの吉田茂元総理は、アメリカの再軍備要請を経済優先と言って断る片方で、アメリカには、日本をアメリカの一部として、合体させる形で軍事力を持つようにしてほしい、と言って、国民に対して二重構造を作りました。

栂野理事長

 まさに主権放棄ということですね。

櫻井氏

 その通りです。平和主義の中で、経済優先の吉田政策への支持は高かったのですが、これを文字通り読めば、日本は主権国家ではなく単に商売をする国ということですね。吉田茂の信念をよく調べれば、独立国としての日本を諦めているということがわかります。この吉田茂の考え方の検証から、戦後日本の総括が始まると思います。
 いま日本政府は他国に比べて決断することもできないと言われていますが、この主体性の欠如は、吉田以来の流れで当然起きた現象なのです。吉田茂の時代に遡って考えて、こんなことでは日本が自立した国家として立ちゆくはずが無い、もう一度根本から考えましょう、というところに、いま、私たちが思想的に立たなければいけないと思います。
 経済や外交はそれからです。吉田の思想を総括することにより、自らの責任で経済も安全保障も外交も行う、日本はまっ当な国家になるべきだとみんなが考えれば、そこから違う政策が出てくると思います。

栂野理事長

 吉田元首相の時代は、冷戦構造の中で1人1人がまだ本当の豊かさというものを感じていない時代でしたが、今は本当に物質的には豊かな時代になってきました。ですが、なかなか、豊かになったからといって、すぐに考えを転換して、時間を国のために使おう、とはならず、かえって1人1人の価値観というのが強くなってきてしまっているのかなと思います。
 私はアメリカの生活が長かったときに、人生ではじめて日本を外からみて、なぜ国旗も掲揚しないし国歌も歌わないのだろうと思いました。そこではじめて日本を勉強しようと思いました。このチャンスがたまたま私にはありましたが、日本は平和で豊かな国であるが故に、そういったことを感じられるチャンスというのが国民1人1人になかなか無く、そのため、なかなか転換点に結びつかないのではないかな、と感じます。

櫻井氏

 イギリスと日本は同じように豊かな島国ですが、ではイギリス人が、イギリスという国家に対して忠誠を示さないかというと全く違います。強烈なイギリス人意識があります。他方日本は、第二次世界大戦でアメリカに敗北し、日本人であることも忘れさせられた。日本の旧憲法と新憲法は価値観が全く違います。つまり、全く価値観の異なる憲法をアメリカによって作られてしまったわけです。加えて、アメリカは日本人に歴史まで忘れさせようとして、戦後の日本では、ほとんど歴史を教えなくなりました。つまり日本人が日本人で無くなってきたのです。日本が変わってしまったのは、戦後たった60年のことなのです。
 ひとりひとりが国や公のために自分の力や時間を使わないのは、豊かさが足りないためでも時間がないためでもありません。日本国民としての意識を持っている人なら、自分が豊かであるか、時間やお金があるかにかかわらず、国家や公のために発想し、働くことでしょう。それが戦後なくなってきています。繰り返しますが、これは、戦後、日本が国家でなくなり、日本人が日本人でなくなったから、だと思います。自らの力で国を護る決意を放棄し、日本の歴史、価値観についての知識も関心も無くなったということです。
 そこを変えなければ、日本は国家としての道を切り拓くことはできないと思いますね。

栂野理事長

 外国の人と、これから、もっと、つきあっていかなければいけない中で、自国に対する意識や認識をもっと持たなければいけないというのは私の経験上すごくよくわかります。
 表面上の歴史は、大学に入るため小学校から習ってきました。しかしながら、近代史を軽んじるということと、年号など表面的な知識に軽んじてしまっているのがいけないのかと思います。我々は歴史に何を学ばなければいけないのでしょうか。

櫻井氏

 歴史を学ぶということは、価値観を学ぶということです。自分のご先祖様がどういう方だったのか、という家族の歴史における価値観を知ることから、地域の価値観を知り、それが集まって国としての価値観となります。この国でうまれたご先祖様たちが、どういう価値観を大事にしながら生きてきたのか、何を護ろうとして一生懸命働いたのか、何を護って死んでいったのか。こうした価値観を知ることが大事な歴史の学びの一歩なのです。
 具体的にどうしたら学べるか。例えば、長岡藩(今の新潟県長岡市)の城代家老の娘として生まれた杉本鉞子(えつこ)(旧姓稲垣)さんが書いた『武士の娘』という本を読んでみましょう。当時のお武家さん一家の暮らしぶり、女性の考え方、家事のこなし方、お爺さまお婆さまとの絆の築き方、などが具体的にわかります。その他にも、江戸の終わりから明治のはじめ、或いは、明治から大正・昭和にかけて生きた人々の人間像を描いた本が出ています。こういう書物が生き方の具体的お手本として、参考になります。
  磯田さんという方がまとめた『武士の家計簿』という本がありますが、これは加賀百万石の会計係であるエリート侍の生活が、大層清貧であったことを現代に伝えています。武士階級は人の上に立って政をするけれども物質的には清貧の生活をする、町民や農民は物質的には武士よりもはるかに豊かだけれども武士に対して篤い信頼と尊敬をする。圧倒的な勝者を作らなかったという点で、江戸時代の日本の社会はバランスを保っていたと磯田さんは言っています。人の上に立つ人は、人よりも贅沢をしようなど考えるものではない、というのが日本の倫理観だったわけです。今の世の中がいかに乱れているか、いまの日本がいかにおかしいかが、よくわかりますね。
 昔の人の生き方から、こういう場合はこういうヒントがあるとか、日本人の価値観はこんなふうだったとか、具体的に学べますね。

栂野理事長

 アメリカにいるときのある友人は、曾祖父の時代にアメリカに来たのに「中国系アメリカ人」と言い、起源をとても大事にしていました。また日系人の方も、いまどき日本でもやらないような日本の伝統的な風習を行っていました。日本は自分たちの文化というものを簡単に投げ捨ててしまったこと自体が問題なのかもしれないですね。

櫻井氏

 それは本当に悲しいことです。一度失われたものを蘇らせるのはとても難しいことです。でも、それに向かって努力をしたほうが良いと思いますね。

栂野理事長

 最後に、30〜40歳の我々は、いま、教育なのか、自分たちが学ぶことなのか、1つでは無いと思うのですが、これから何を担っていくべきなのでしょうか。

櫻井氏

 かつての日本は非常に幼くして大人の能力を持った人材を輩出してきました。たとえば津田塾を創設した津田梅子はわずか6歳で預けられたアメリカの上流家庭で、人への配慮や、非常な賢さを備えた完全な淑女であると、驚嘆されているのです。これは日本社会全体に行きわたっていた教育、日本文明の価値の実践の結果なのです。日々の両親の行動から学んでいるわけです。江戸時代の子どもの遊びは、すべて大人の真似でした。両親や大人の行動の真似、つまり大人たちの学びから、子どもたちは突然、一夜にして、完全なる大人になっていくのです。
 であれば、いま、私たち大人が日本人であることを常に意識して暮らすことです。日本人としてのお手本になる生き方、暮らし方を、日常生活で見せていくことが最善の教育だと思います。例えば国歌を歌う、国旗を掲揚する、というのもあるでしょうし、優しい心を実践する、しかし毅然として闘うときには闘うというのもあります。恥ずかしいことはしない、弱いものいじめをしない、ということもあります。
 一方、社会の一員であることを意識して社会を下支えすることで個人の生活も良くなるということを認識する。公の心を持つこともそうです。日々の生活のお箸の上げ下ろしから日本人教育がはじまるのです。
 その中で、子ども達には歴史を具体的に語ってきかせる、このような素晴らしい偉人達がいましたよと、個々の英雄伝説が良いですね。たとえば太平記ですが、これは親と子どもが一緒に読むとすごく楽しいと思います。民族としての教養につながってきます。子どもには聞きかじりでもいいです。大人が読んできかせれば、子どもはまず耳で歴史を学びます。最初は聞きかじりでも、興味をもてば、その内、自ら学び始めます。30代の皆さんはそういうものを読んで来なかったと思います。いまは読みやすくなっているものがたくさんありますから、1ヶ月に1冊でもいいし、お父さんと子ども、お母さんと子どもで、昔の人はこうだったね、という話をしたら面白いと思います。

栂野理事長

 昔に比べると、我々は昔話をきいていましたが、あらためて自分が子どもにしているかというと、してないな、と思います。

櫻井氏

 いまどきの絵本や物語は、書き換えられているのが多いのです。例えば因幡の白ウサギ。今は皮を剥がれるのではなく、ごめんなさいと謝って許してもらっちゃうのです。カチカチ山のタヌキが、背中に背負ったたき木を燃やされるのも、泣いて謝ったら許してもらうように変えられているのです。ひどい話になっています。

栂野理事長

 道徳が崩れる勢いですね。

櫻井氏

 昔物語は、嘘をついて人をだましたらこうなりますよ、と子どもに教える機能がありましたが、今では嘘をついても泣いて謝れば許してもらえる構図になってしまっています。
 こんな物語ではなく、自分に恥ずることのない責任ある行動をすることが大事ですよ、ということを教えていってもらえればと思います。

栂野理事長

 わかりました。頑張りたいと思います。本日はどうもありがとうございました。


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