理事長対談

五木寛之氏と東京JC役員が会談

 (社)東京青年会議所西野晃透理事長は、作家の五木寛之氏と12月4日午後3時から東京プリンスホテルで会談した。五木氏はかねがね次代を担う世代であるJCに期待を寄せJCとの連携を模索していたが、連携して何かを成すにあたって自分が今何を考えているかを知ってほしいとの思いから会談が実現したもの。 
 当日は西野理事長のほか、渡邉歴代理事長、山崎、谷田、田中副理事長、長岡専務理事、美和総務室長、田辺広報特別委員長、相澤総務渉外委員長らが同席した。
 会談では今年6月から新シリーズ「日本人のこころ」(講談社 全6巻)を上梓する五木氏が「情(こころ)」について持論を展開、本当は日本人の“情”と書いてこころにしようと思っていました。読みにくいので、最終的に“こころ”としたが、こころに漢字を当てるとしたら心ではなく情です と前置きして概略次のように語った。

 
 このところ、人の命がその重さや手ごたえを益々失ってきているように思います。日本人の魂、日本人の精神はまさに危機に瀕しているように見えます。戦後は『情』ほど軽蔑されてきた言葉はありません。『情』のりっしんべんは心の下半身、青は慈悲を表します。愛は知的なもので差別感を超えたヒューマニズムを示す心の上半身ですが、情は喜び、悲しみなど理屈抜きでかわいそうといって抱きしめるこころの下半身をあらわしています。
 この二つをあわせて心なのですが、戦後の日本は涙もろく湿った感覚のある情の部分を徹底的に排除し軽蔑して乾ききった社会を作り上げてきました。それは、あたかも建築の世界で泥を水でこねて土壁を作り家屋を建ててきた戦前の湿式工法と違い、戦後は水を一滴も使わずに建設する乾式工法に似ています。まさに乾ききった世の中が出来ました。

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 家族の会話もない乾式家庭、終身雇用ではなくリストラに怯えつづける乾式雇用、情緒を無視しコンピュータ管理する乾式教育など人間に関する事に象徴的に現れています。
 その結果が一年間の一般民間人の自殺者が33000人という数字です。交通事故の死者は一年間9000人、ベトナム戦争15年間のアメリカ兵の死者は51000人です。これを考えると有事立法が盛んに言われますが、今の日本がまさに有事で、今が戦争なんだと言わざるを得ません。自殺者の増加と凶悪犯罪の増加が並行して起こっています。乾式社会でこころが乾ききっているため命が非常に軽く扱われています。命が重くないから簡単に自殺するし、軽く他人も殺せるのでしょう。
 私は敗戦直後の経済的混乱を体験しました。その経験からいって経済問題などどんなに困難でも大丈夫です。25年経ったらまたバブルが始まります。心の荒廃こそが問題です。
 なぜ人を殺してはいけないのかという子供の問に対して、文部科学省がマニュアルを作り『人に足を踏まれたら痛いでしょう。だから人の足も踏んじゃいけない。同じ様に自分の命は大切でしょう。だから他人の命も大切にしましょう』というものでした。これでは本質論に欠け説得力がありません。もっと本質的な答えを考える必要があります。

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 自殺は心のデフレ、魂の不良債権で1件の自殺は近隣の300人に心的外傷をあたえるといわれています。戦後日本は封建社会から立ち直るため、テクノロジー中心の乾いたドライな社会を目指して突き進んだため、湿気が邪魔になりました。それが行き過ぎてしまったのが現代社会です。昔の日本人は泣くことを大切にしてきました。ユーモアと笑いはカルチャーですが、それは乾いています。涙と泣くことは湿ったカルチャーです。泣くべき時に泣き、泣くべきでない時は歯を食いしばって我慢しました。そのことが適度な湿気があるみずみずしい社会を作り上げていました。慈父と悲母というように理性的愛と盲目的情が今こそ必要なのではないでしょうか と語った。
 また、JCについては 今は新旧老若などバラバラのグループに分かれており、グループ内でも対立があって三国志のような状態です。JCは眉を吊り上げて何かを主張するのではなく多少の遊び心があるからいいですね。ただやや論に傾きすぎる傾向がありますが、動員するのではなく緩やかに多くの人が楽しめる活動をしてほしいと思います。JCの会合に行って思うことは、まず演壇が高すぎます。演壇はテロを防ぐためのもので、観客とのコミュニケーションは講師の体が見える度合いと比例しますから、そんな心配のない催しはもっと演台を低くすべきです。セミナーでもあれをやっちゃいけないこれをやっちゃいけないなどなど禁止事項が多すぎます。そんなことよりもサウンドチェックも自分たちでするなどもう一工夫が必要です。管理するのではなく観客に奉仕しないといけません。日本はボランティア精神をノウハウ化してきませんでした。JCはいろんな可能性のある団体ですから頑張ってほしいですね と注文をつけつつ激励した。
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 西野理事長からは自分の娘が一度は反発した祖母の見舞いに自ら進んでいくようになったエピソードの紹介や、東京青年会議所の来年度の活動方針、志民社会について説明が行なわれた。これに対し五木氏は すでにお子さんの中に湿った水のプールがあったから親の言葉に反応したんですね。そうした土壌を作り出す教育が大事です。日本にはNPOの伝統があります。知情意の3つを統合するようなアプローチが必要ですね。日本は神仏習合で仏と神が共存しています。アメリカの家庭にキリスト教とイスラム教があればアフガン戦争は起こらなかったかもしれません。日本は古来から一木一草に命が宿り、八百万の神がいるという宗教感覚がありました。これこそが世界に輸出できる思想です。21世紀の大きな課題である環境問題、宗教・民族問題も日本の宗教感覚からくる寛容の精神があれば解決できるのではないでしょうか と述べた。
 その後五木氏は東京、京都、金沢など江戸文化と地方文化の多様性、情報公開と日米メンタリティーの違い、日韓ワールドカップなど幅広い話題に触れ持論を展開した。
 最後に 知るは楽しみなりといいます。とにかく私たちは日本を知らなすぎます。漢字、ひらかな、カタカナ、ローマ字などを過不足なく使いこなす豊かな文化をもった日本をもう一度知ってほしい。知ることは景色が変わります と語り豊な日本を今一度取り戻そうと出席者に呼びかけた。
 東京青年会議所では今後機会があれば定期的に五木氏と会談したいとの声も有り、JCと五木氏の連携を取った動きの成り行きが注目される。

(2001年12月4日 東京プリンスホテルにて)


いつき・ひろゆき PROFILE
1932年9月福岡県生まれ。朝鮮に渡り戦後引揚げ、早稲田大学露文科に学ぶ。66年『さらばモスクワ愚連隊』で小説現代新人賞、67年『蒼ざめた馬を見よ』で直木賞、76年『青春の門・筑豊篇』ほか、文明批評的活動が注目を集めている。近著に『生きるヒント』シリーズ、『大河の一滴』『他力』『人生の目的』『知の休日』など。
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